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・𧏛貝(キサガイ)は「赤貝」ではない

H28年5月15日(日)改稿 平成28年3月23日(水)初稿
八十神の迫害、根の堅州国
キサガイ(?)とウムガイ(蛤)
八十神によって焼き殺された大国主を、𧏛貝比賣(きさがひひめ)・蛤貝比賣(うむがひひめ)のコンビが生き返らせたとある。で、この𧏛貝(きさがひ)・蛤貝(うむがひ)というのは、今でいう赤貝(あかがい)と蛤(はまぐり)のことだというのが定説。このうち蛤はまぁいいとして、キサガイは本当に赤貝のことなのか? 赤貝ってのは寿司ネタによくあるやつで、現代人もよく知ってる貝だが、本当に昔はこれをキサガイといったのだろうか? 実は赤貝のことをキサガイと言っていたという確実な証拠は存在しない。赤貝説は本居宣長が言い出したことだが、宣長がなぜそういう説を立てたかというと、『和名抄』を根拠にしていたのである。『和名抄』には、「蚶」の字のもともとの意味(漢字本来の意味=中国での意味)は今の赤貝のことだという話と、「蚶」の字の訓はキサだという話を並記しているだけなのだが、この二つは別件である。宣長はこれを短絡・混同して、𧏛の字は同じくキサの訓をもつ「蚶」の誤写だとした上で赤貝のことだとした。
赤貝はこんにち寿司ネタでお馴染みだが、この通説は誤りである。植物名や虫魚の名は、漢字が意味する本来のものと和名(訓読み)がさすものとがズレてしまっている例が甚だ多い。「蚶=キサ」が今の赤貝だというのは『和名抄』が引用する『唐韻』の蚶の字の説明に出てくる貝の特徴(貝殻に縦横に筋目模様があるという)を根拠としているので、蚶の字とキサの訓とのつながりが誤っていた場合には、要するに今の赤貝のことを昔の中国人は「蚶」(かん)と呼んでいたということでしかなく、日本のキサガイの説明とは無関係となる。キサは刻むと同語源で赤貝に特徴的な縦筋の刻み目に由来するというが、今の赤貝のイメージを前提にした後付けにすぎない。後世のニュアンスで刻むというとキャベツの千切りみたいにやけに細かく切り刻む印象があるが、それが間違いの元である。キサは階(きざ)、段(きだ)の古語に通じ諸段階や階層性が原義で、生物学で巻き貝の渦巻きの重なりのことを「螺層」(らそう)というように、キサガイは何重にか巻き上がった巻き貝のことに他ならない。実際に昔の日本人には親しみ深かった細螺(きさご)という巻き貝が日本全土の海域に分布する。これは後世に庶民にもっとも馴染みのある特定の貝の名になったもので、もともとは巻き貝一般をキサガイと言ったものと思う。キサガイ・ウムガイが「細螺・蛤」の意味になったのは最も代表的な貝の名に定着してしまっただけで、もともとは巻貝・二枚貝の一般名詞だろう。
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