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・兄(え)と兄(せ)では意味が違うのに…?

平成26年11月10日投稿 (平成26年10月15日(水)初稿)
前フリ1:「エ(兄)/オト(弟)」と「イモ(妹)/セ(兄)」の基本を確認すると
よく知られたことだが、古語では「兄」の字をエと読む場合と、セと読む場合があるが、エとセでは意味が違う。エの対語はオトまたはト。で、エというのは兄弟姉妹のうち自分より年長の兄姉をさしている。つまり兄の字をエと読む場合には弟や妹でないことはわかるが、兄なのか姉なのかという性別はわからない。
セと読む場合はまた別。セの対語はイモで、セというのは兄弟姉妹のうちの兄弟(男の兄弟)をさしてセと言ってるのであって、兄(歳上)なのか弟(歳下)なのかはわからない。つまり英語でいう“brother”のことなのである。
また「弟」の字はオトまたはトだが、これは実質的には妹をさす場合も多い。古語のトまたはオトは、兄弟姉妹のうちで弟妹をさす言葉であって、エもそうだがトも性別を区別する言葉ではないからだ。あくまで年長か年少かを区別する言葉が「エ/オト」である。
また「妹」の字もイモと読んで大抵の場合は兄弟姉妹のうち姉妹をさす。つまり姉のことをもイモと呼んでいた、なぜならイモという言葉は年長か年少かという意味を含まないからだ。つまりイモは英語でいう“sister”の意味だから当然、姉のことをイモという場合がある。
整理すると「エ←→オト」というのは年齢の上下を区別するのであって性別を区別しない(姉と妹のコンビでも「エとオト」だ)。「イモ←→セ」というのは性別を区別するのであって年齢の上下は関係ない(姉と弟のコンビでも「イモとセ」だ)。
だから『古事記』では「兄」の字が約70回、「弟」の字が約60回、「妹」の字は約50回も出てくるのに「姉」の字はたった3ヶ所しかない。歳上の意味では「兄」(え)と書かれ(兄比賣(えひめ)とか)、“sister”の意味では「妹」(いも)と書かれるので「姉」の字はめったに使われないわけ。エとセとオトとイモの4語のうちエとセの両方に「兄」の字を使うから「姉」の字の出番がなくなってしまっている。

前フリ2:「いろ〜」
セ、イモ、オトは同じ母親から生まれた場合にはイロセ、イロモ、イロトとなる。エだけはイロエとイロネの2通りある。イロエはわかるとして、イロネというのは「ネ」が親しみを込めた呼びかけの言葉だというのだが、どうなのかな?「イロのエ(兄)」の縮約じゃないのかとも思ったが、歳上を意味する「え」は奈良時代にはヤ行の[ye]だったので、母音衝突にはあたらない。「の」もイロセ、イロモ、イロトにはないのにイロネだけ入るのは不審。ネは兄や姉をあらわす古い言葉でエとは同義だがエより古い言葉なのかもしれない。

前フリ3:「な〜」
エ、オト、セ、イモを親しみを込めて呼ぶ場合にはナネ、ナオト、ナセ、ナニモとなる。ナイモがなぜナニモになるのかというと「ナのイモ」が縮まったというわけではなく、母音衝突を防ぐために一つ前の子音を連用してるのだろうか、こういう訛り方に名称があったように思うが忘れた。いずれにしろ、これでいうとナオトはナノトにならないとおかしいような気がするのに古語辞典にはそういう例は出てこないなぁ。さらにいうと、イロモ、エトという言葉があるんだから、ナモ、ナトという言い方もあってよさそうに思う。ナネは年齢とも性別とも無関係に使われるというがそれは後世の乱れた使い方でもともと古くは歳上(現代語の兄や姉)に使ったんだろう。現代でも、明らかに歳上のおっさんが自分より下の者をつかまえて「ちょっと兄ちゃんよ〜」とか「そこの姉ちゃん」とかって声をかけるのと同じで、意味がかわってくることは大昔でも普通にあったろう。おっさんが年下をつかまえて「兄ちゃん」「姉ちゃん」というのは自分を弟の地位において敵意のないことを表そうとした表現。わざと言葉の元の意味からずらして使うことで独特のニュアンスを醸しだす、これによって長い間に言葉の意味が徐々に変わってしまい、古語と現代語に隔たりができてくる。そしてそうやって今も日本語はかわりつつある。

前フリ4:「エ/セ」の原義から逸脱した「兄」の字の読み方(誤読?)
同性の兄弟同士なのにエとかオトとか呼ばずにセと呼んでる例も多い。しかし同性の姉妹同士なのにエとかオトとか呼ばずにイモと呼んでる例がないのは偏ってる事態だが、後世の崩れた用法だから偏ってるのかな。前者の、男同士なのにエとかオトとか呼ばずにセ(同母ならイロセ)と呼ぶのは『古事記』のような古い伝承の場合には「兄」の字を誤読しているだけの可能性が高いと思うが、岩波の古事記も角川の古事記もそう読んでる例が多いので、仮に間違いではないとすると、相手を男の中の男として敬意を表してるようなニュアンスか。逆にいうと、異性間なのにセともイモとも呼ばずにエやオトで表せば、なんとなく仲が悪いか疎遠な感じになるのかな(日本語の間違い感も強いが)。これらはわざと意味をずらして使うことによって特定のニュアンスを醸し出す用法としてはありなんだろうが、古い時代ほど厳密に使ったはずだろう。

本題:俺がおかしいの?誰か教えてくれろ。
さて本題に入ろうw 古事記の「目弱王の変」の話なんだが。まず、黒日子王が兄、安康天皇が真ん中、大長谷王(のちの雄略天皇)が弟という兄弟構成を頭に入れて下さい。で、安康天皇が暗殺された時の、雄略天皇が黒日子王を問い詰めるシーンで「(殺された)安康天皇は一つには天皇であられ、一つには兄弟でもあるのに、なんで『兄』が殺されたと聞いてのんきにしてんのか」と言っている。この『兄』は岩波古典文学大系だと「いろせ」と読んでるが、同じ岩波でも「日本思想大系」と講談社文庫のだけが「いろえ」になってる(他は角川文庫でも小学館の日本古典文学全集でも「いろせ」)。
黒日子王は実は安康天皇の兄つまり年長なんだよね。ということはここは(黒日子王から見ての安康天皇をさしてるのだから)「いろえ」だとへんだろう。ここは「弟」となければならないところだが、もし「兄」でいいなら、読みは「いろせ」でよいはず。なのだが、既存の各社刊行の古事記の注釈はおかしなことに「いろえ」ではなく「いろせ」と読んでおきながら、「兄と書かれてるが、弟のはずなのに。これは不可解、なにかの間違い」みたいな解説ばかり。「いろせ」は男の兄弟つまり「兄か弟」という意味であって「歳上の兄」という意味ではないのだから、兄の字を「せ」または「いろせ」と読むのなら矛盾はなくなるんじゃないのか。
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